新外為法のクレジットカード業界に与えるインパクト

新外為法とクレジットカード業界

1998年4月1日から、金融ビッグバンの先駆けとして新外為法 (外国為替及び外国貿易法)が施行されました。これによってクレジットカード業界はどのような影響を受けるのでしょうか。最近、新聞やテレビなどでは、「外貨預金」「ドル決済」「個人資産の海外運用」など、さまざまな言葉がにぎやかに報じられていますが、カード業界では今後どのような展開があるのでしょうか。現段階で予測するのはやや時期尚早の感を否めませんが、考えられる点をいくつか拾ってみましょう。

国際カード取引決済システムの概要

まず、VISA、MasterCardの国際決済システムに、これまでの旧外為法(外国為替及び外国貿易管理法)の規制がどのような影響を及ぼしてきたかを整理してみることとします。

その国際取引決済の流れをまとめてみました。全部で11ステップとなります。

旧外為法は外国為替取引について、

  • 財務省許可事項
  • 日銀の許可事項(対財務省協議を含む)
  • その他(外国為替公認銀行の承認事項)

などにより、直接的ないし間接的な規制を設けていました。具体的には、次の6項目に分類できるでしょう。

外貨預金勘定の開設

居住者(自然人、法人とも)が海外で外貨預金勘定を開設・保持することは、商社や船舶会社など一部の例外を除き、原則禁止とされていました(旧法20条1項、21条1項)。

各カード会社は、VISAやMasterCardなどの国際ブランドカードのメンバーとしてその業務を行うため、通常、取引邦銀の在米支店や現地法人、コルレス先銀行に自社名義のドル預金勘定を開設する必要があり、預金勘定開設1件ごとに財務省の許可が必要とされていました。

ここでうっかり見過ごすごされやすいのがACH(Automatic Clearing House)の存在です。ACHは1968年にカリフォルニア州で誕生し、その後全米に広がっていった銀行間決済のための磁気テープ交換システムです。

日本で東京銀行協会および大阪銀行協会が行っている磁気テープ交換業務に相当します。VISAなどが国際取引の決済を行う現地の大手銀行は当然これに参加していますが、邦銀の在米支店などではこのネット網に未加入のところもあります。これを見逃して預金開設の許可をとったカード会社は、改めてACHに参加している別の銀行で預金勘定開設の許可を財務省から得なければなりませんでした。

相殺(オフセッティング、)

居住者が海外への支払いと海外からの受け取り(支払いの受領)とを相殺する行為は、外国為替公認銀行の聖域(いわゆる為銀主義)を侵すものとされ、厳しい規制対象にされていました(旧法17条、1日法に基づく外国為替管理令7条3項と特殊決済方法に関する省令5~6条)。

日本のカード会員が、海外旅行をしてドル建て取引を行うと、その支払いは業界用語でいうInternational Interchange Incoming(イン)として海外向け支払いとなります。一方、来日外国人のカード取引はInternational lnter change Outgoing(アウト)として、海外からの受け取りとなります。国際ブランドカードの中央処理センター(CS)⑤ は、このインとアウトを相殺し決済するが、これが財務省許可の対象とされていました。このインとアウトの構成要素はカード会員の買い物代金のほか、チャージバック代金や手数料のやり取りも含むものとされました。なお、「相殺する金額|(支払いもしくは受け取りのうち、いずれか小さい金額)」が500万円相当額以下の場合は、制限免除(案件軽微もしくは小額のため許可手続きが免除される)扱いとされていました。

ため受け、ため払い行為

住居者が海外でドル預金勘定を通じ、他人のために支払い。受け取りを行うことも、為銀の聖域侵犯として、相殺同様、規制されてきた(旧法17条、外国為替管理令7条3項、特殊決済方法に関する省令6~7条)。

しかし、本件については、カード会社が財務省の許可を得た形跡が見当たらない。預金勘定の開設申請に吸収されて不間とされたのか、あるいは見落とされたのか、今となってはその理由は不明です。厳しい為替管理が行われていた時代の、一種のエアポケット現象であったといえるでしょう。

国内における居住者間の決済

日本において、決済に円を使う(ドルではない)のは当たり前のこととされてきました。しかし、香港などでは、現地通貨とドルとが併用されています。

世界に悪名高かった日本の旧外為法は、円決済に限定していた経緯にも一応の理屈をつけていました。いわく、「国内における債権・債務の基礎となるものは円建て契約です。これを外貨で決済することは、対外支払手段(たとえばドル)の売買に当たり、これは財務省の許可対象となる」、「国内でドル決済を認めると、金融制度の根幹が混乱する」などです。

在日米軍基地や、外国在日公館等はもちろんその例外とされていました(旧法20条3項および4、21条1項)。日本のカード会員に毎月送られてきた請求書がすべて円建てであった背景には、この規制があったわけです。

居住性の認定

旧外為法は、そもそも日本国民の対外取引に対し規制を設けることを目的としたものであり、その必要性から、最も厳しい取り締まりの対象となる日本人居住者とそれ以外の非居住者を定める「居住性の判定基準」が詳細に定められてきた(旧法6条5項と6、外為法令の解釈。運用通達6・1・5(本邦人の場合、外国人の場合、家族の居住性、法人の場合、在外、在日公館等の特例〕)。

この基準は新法にそのまま引き継がれています。カード業界では通常、外国人に対する居住性の認定は、カードの発行審査業務において重要な意味を持つ。この点については後述することにします。

外貨換算レート

日本では、これまでの護送船団行政とそれに伴う慣行により、整然とした横並びの為替相場体系(特に対顧客相場)がまかり通ってきました。相場の建て方そのものは、過去何回か表面上は自由化されてきましたが、実質的にはリーダーとなる銀行に「右へならえ」する方式が今でも尾を引いています。

これに対し、国際ブランドカードが使用する換算相場は、ニューヨーク、ロンドンなどの外国為替市場で、大手銀行が市場の需給バランスと自行為替ポジション(持高)とを晩み、独自に定める完全な自由相場です。いわば極めつきの「わがまま」な相場です。この自由な換算相場と、日本のお行儀のいい相場とは、かなり乖離することがあり、これがカード会員の疑問と苦情の種となっていました。

外為法改正に伴う影響

以上、1日外為法のしばりをみてきました。次に、新法の施行並びにビッグバンの到来により、カード業界にはいかなる影響があるかについて、若千の考察を加えてみましょう。

カード会社

4月以降カード業界に新規参入する会社は、自由にドル預金勘定を開設したり、相殺を行ったりすることができます。ただし、アメリカで預金口座を開く場合、ACHへの配慮は引き続き必要です。一方、すでにドル預金勘定の開設許可を受けていたカード会社は、許可条件とされた「預金の受け払いと送金の月別報告」を、98年4月以降は提出しなくてよいこととなります。

なお、カード会社は、新外為法55条により、4月以降も毎月、

  • 相殺行為(相殺する金額が500万円相当額以下の場合を除く。相殺の考え方は従来どおり)
  • 海外預金残高および貸・借記残高 (月末の残高が1億円相当額以下の場合を除く)

の2項目に関する報告を日銀へ提出することが必要です。この報告は、新法では「事後報告制度」と位置付けられており、日本の国際収支統計の作成データとされます。

一般消費者

カード会員は今後、国内外で自由にドル預金勘定を開設し、これを通じて海外旅行や個人輸入など、海外でのカード取引代金を決済することができます。

ただし、アメリカにドル預金勘定を開設する場合、日本では当たり前となっているカード決済にかかわる自動振替機能に代わる機能が備わっているかどうか、残高不足などのトラブルが発生した場合どのような対応が講じられるかなど、事前に確認しておくべきです。

なお、この預金勘定に、海外で入手したドル資金を入金しておくことも可能となります。頻繁に海外に出かける人や、海外でドルを入手する機会のある人にとって、今回の規制緩和は朗報といえるでしょう。

為替リスクの回避

加盟店並びにカード会員は、ドルによる決済を選択することによって、円安進行に伴う為替差損を回避できます。ただし、保持するドル預金そのものの為替リスクも当然負担することになります。

その他のビッグバン効果

これは、

  1. 銀行に対するカード会社の要請
  2. カード会社に対する会員および加盟店からの要請

の2つに分けられます。

各種手数料の引下げや見直しの要請

送金手数料

日本人の海外旅行者数が来日外国人数を大きく上回っているため、日本のカード会社は常にネットインカミング、すなわち支払者の立場にあります。これは円決済(VISA)であろうと、ドル決済(MasterCard)であろうと変わりはありません。これは、カード会社が自社名義の決済勘定に、常に送金しなければならないことを意味しています。

通常、決済を円滑に行うために、通知日と決済日との間に一定の期間(これをグレースピリオドという)が設けられます。国際ブランドカードの定めるグレースピリオドは2営業日、すなわち「通知受領日の翌々日決済」であり、メンバーはこの2日間に資金手当てを行うわけです。ところが日本の場合、この2日間の余裕が時差で1日縮まり翌日決済となります。このため資金繰りの余裕がなくなり、カード会社は資金残高ショートの危険を避けるため、ワーキングバランスを常に厚めに保持するか、あるいは頻繁に送金せざるをえなくなります(延滞金利は極めて高く設定されている)。

現在、銀行の送金手数料はかなり高く設定されていますが、ビッグバンの到来により、これまでの横並びの手数料体系がゆらぎ始める折柄、カード会社(特に信販、流通系)からの引き下げ要望は一層強くなると見込まれます。

外貨換算手数料の見直し

カード会社が得る外貨換算手数料(0.6~0.63%)は、87年に多通貨決済システムが発足した際に、VISAの取り分としての交換手数料1%のほかに、メンバーカード会社の取り分として認められたものです。当時の代表的な短期資金金利であるニューヨーク市場のBAレート(1~3カ月物)の0.625%が採用されたという経緯がありました。この金利は今日まで続いています。

この手数料を立替金利相当分とみるのであれば、金利変動に応じて上下させるべきでしょうし、あるいは交換手数料とみなすのであれば徴求する理由付けが必要となるでしょう。ただ、この手数料は今やカード会社の安定的収入源の1つとなっているので、カード会社としては軽々には動くことはできないとみられています。

加盟店手数料

ビッグバンの到来とともに、外資系企業の対日進出がますます増えてくると見込まれます。これらの企業が日本で加盟店となった場合、その割高な加盟店手数料に強い抵抗を示すのは必至です。これが援護射撃となって、従来からの加盟店手数料の引下げ圧力は、ますます高まることとなるでしょう。

国際カード取引のドル決済の普及

シティコープカードサービス東京支店は、新外為法の施行を先取りする形で、4月から日本国内の居住者向けに、米ドル建て決済用クレジットカードを発行すると発表した。日本の富裕層(資産1億円以上)は全国で40万~50万世帯といわれており(読売98・3・27)、同社の動きはこの富裕層を狙ったものと推察されます。日本のカード会社にも追随の動きが出ていますが、ノウハウの蓄積や事務処理能力の向上など、カード会社の体力増強を強いる競争がますます激しさを増すものと考えられます。

カード会員の為替相場に対する意識の向上

カード会員は、これまで護送船団方式による横並びの為替相場体系を当たり前のこととして受け入れてきましたが、これからは相場の動きに一層敏感となるでしょう。海外カード取引の決済メカニズムにさらに興味を抱き、これが各ブランドの選考基準の1つに加わってくる可能性もあります。

外国人居住者に対するカード発行

前述した「居住性判定基準」は新外為法にそのまま引き継がれたので、この「在日外国人に対するカード発行」の問題が新法移行に伴って急に表面化することはないでしょう。ただし、内外の人的交流が進み、外国人居住者が増えるにつれて、カード発行基準の見直しを求める声が高まると予想されます。

一般的にいって、カード会社は外国人にカードを発行することにきわめて慎重な(ある意味では消極的な)スタンスを示してきました。これは言葉の問題は別としても、会員がカードを入手した後で、いつ住所不明となり債権の取り立てに支障をきたすことになるかも知れないという危険がつきまとうので、無理からぬことと理解はできます(かつて、中南米の在日公館に在籍する外交官が、多額のカード未決済額を残したまま帰国してしまい、その後の処理が難航した事件さえあった)。しかし、このようなアレルギー体質からも、そろそろ脱却せざるをえない時期が到来しているのではないでしょうか。

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