
本記事の内容
現代日本における被害額の推移
警察庁が1996年3月にまとめた「クレジットカードセキュリティに関する研究報告書」(財団法人全国防犯協会連合会、委員長=石井威望・慶大教授)によると、92年の大手クレジットカード18社のカード不正利用による被害額は171億円、93年度の損保大手15社の保険金支払額は127億円に達していたということがわかります。
この報告は、 1回限りのものであつたので、その後の推移を社団法人日本クレジット産業協会が調査した計数で補足すると、被害額は表1のとおりとなります。
日本のクレジットカード不正利用による被害額
1992年 | 171億円 | うち偽造カード被害n.a. |
1995年 | 187億円 | n.a. |
1997年 | 188億円 | 12億円 |
1998年 | 216億円 | 28億円 |
1999年 | 272億円 | 91億円 |
2000年 | 309億円 | 140億円 |
2001年 | 276億円 | 146億円 |
n.a.は統計用語。入手不能の意。not availableの略。
昨年1年間の被害額は276億円、前年に較べると約1割減少したものの、偽造カードによる被害がここ数年間ウナギ登りに増えてきている点が注目すべきところです。
被害額の3つのタイプ
被害額は次の3つのタイプに分類されます。
①届け出ベースの被害額
警察当局へ届けられた被害額です。たとえば、毎年発表される警察自書のカード被害額と日本クレジット産業協会が把握している被害額とを比べると、両者の間には大きな乖離があることがわかります。これは、後者がイシュアー(カード発行会社、たとえば三井住友VISAカード)、アクワイアラー(加盟店を管理するカード会社、たとえば日本信販)双方の被害を包含しているのに対し、前者はアクワイアラーと加盟店からの被害額の一部を指すにとどまっているからです。
この点については、「加盟店は、クレジットカードの不正利用をされた場合でも、アクワイアラーから代金の補填を受けることがあるので、被害届けを出そうとしないため」という、カード犯罪総合対策検討委員会のコメントを引用しておきます。
なお、各大手クレジットカード会社と母体銀行/企業との関係は、第3章で図で示しておきますので参照して下さい。
②インターネットベースの被害額
保険などでカバーされない、カード会社の被害額です。最終的には、不良債権の一部として損益計算書に計上され、消却の対象となります。
イシュアー、アクワイアラー別のそれぞれの被害額
これがわかれば被害の全体像がより明らかになるのですが、部外者には把握が困難であることが実態です。
クレジットカード犯罪の類型と手口
これまでに明らかにされている犯罪類型の分類パターンは次の3つです。
①VISA、MasterCardによる分類
- 変造・偽造カードの不正使用
- 紛失・盗難カードの不正使用
- 郵便抜き取り、NRI(never received issues)
- 通信販売の悪用
- 虚偽申請によるカード不正入手
- 売上伝票不正操作
- 会員番号乗っ取り(紛失届と転居届を併用し、再発行カードを入手する)、account takenoverと呼ばれている。
- その他
②THE NILSON REPORT(注)による分類
- 盗難・紛失カードの不正利用
- 偽造・変造カードの不正使用
- 組織的犯罪グループによるカード不正使用
- 不良加盟店によるカード悪用
- 郵便抜き取り、NRI
- カード印刷業者による生カード横流し
- コーチ屋と多重債務者との共謀
- その他
THE NILSON EPORTはクレジットカードを取り扱う、米国の世界的に有名かつ権威ある専門誌です。
③警察白書による分類
- 自己名義カードの悪用
- 窃取カードの不正使用
- 拾得カードの不正使用
- 強(喝)取カードの不正使用
- 編取カードの不正使用
- 偽造カードの不正使用
- その他
それでは、日本国内で過去6年間(1996/2~2002/6)に発生し、新聞紙面を賑わしたクレジットカード絡みの主要犯罪事件をまとめてみると、次の表のとおりとなります。
クレジットカード絡みの主な犯罪等
1996年 |
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1997年 |
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1998年 |
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1999年 |
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2000年 |
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2001年 |
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2002年 |
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出典:主要全国紙から作成
これを読んでいくと、最近のカード犯罪がいかに多様化し、異なった内外の登場人物がさまざまな舞台で、いかにクレジットカードを悪用しているか、さらにクレジットカードという財物がいかに犯罪の用に供されやすいものかが生々しく眼前に浮かび上がってきます。
次に、クレジットカード絡みのインターネット犯罪(サイバー犯罪)に注目してみましょう。この動きを示す確たる資料や統計はまだ存在しません。そこで、警察庁、情報処理振興事業協会、不正アクセス対策室、「日経バイト」、「日経パソコン」などの資料をもとに、最近数年間、ネット上で繰り広げられた犯罪やトラブルを整理してみると以下の表のようになります。
インターネット犯罪の主な類型
類型 | 種類 |
①詐欺 | 代金を受けて商品を渡さず(あるいは欠陥商品を渡し)消息を絶つ。オークション絡み。アダルトサイト絡み。ギャンブル。内職募集。なりすまし等。 |
②不法商品売買 | 他人名義の銀行日座。個人(クレジットカード)情報。覚せい剤。麻薬。偽造国際運転免許証。偽造パスポート偽造入学許可証等。 |
③身に覚えのない請求 | ダイヤルQ2電話料金。国際電話料金。パソコン利用料金。プロバイダー加入料金。有料HP閲覧料金。クレジットカード利用代金等。 |
④ギャンブル | 掛け金(競馬、ポーカー、ルーレット等広範囲) |
⑤カード情報 | クレジットマスター、クレジツトウイザード |
⑥ネズミ講 | 会員払込金。健康食品モニター払込金等。 |
⑦不正アクセス ハッキング クラッキング |
他人のID。パスワードを使ってコンピュータに侵入しプライバシーを侵害。盗聴。覗き見。データ窃盗/改鼠。ポートスキャンを利用して他人のパソコンを渡り歩き、セキュリティーホールを探して侵入。産業スパイ活動等。 |
③脅迫/恐喝 | 盗んだカード情報をバラまくと言って脅迫。出会い系サイトを悪用して恐喝等。 |
⑨個人情報漏えい | クツキー(cookie、特殊ソフト)を利用して、サイトの個人情報を収集し、これを他人に漏らす。 |
⑩悪質ないやがらせ | SPAM、メール爆弾、迷惑電子メール等。 |
⑪ウィルスばらまき ワーム トロイの木馬 etc… |
システム破壊。フリーズ。異常メッセージ。データ消去。データ改竃等。(チェルノブイリ、I love you、sircam、nimda、Goner等極めて危険、悪質なウィルス5万6,000種類以上) |
⑫その他 | 猥褻物頒布。児童買春/ポルノ法違反行為。誹謗。中傷。名誉毀損。著作権法違反行為。ツーショットダイアル、メール覗き見、ワン切り等。 |
出典:大手クレジットカード会社から聴取。
なりすまし、詐欺、ギャンブル、不正アクセス、個人情報横流し、データ窃取、恐喝、ウイルスのバラ撒きなど、その多様性に慄然とさせられます。
これに対抗するため、1999年9月、郵政省(旧)、一部の都市銀行、流通業界および情報通信メーカーの大手が官民合同でこれまでバラバラだったe-コマース決済手段を統一し、標準化するため、「インターネット決済推進協議会」を設置しました。
インターネットショッピングの決済方法
銀行振込、郵便為替 | 指定回座に代金振込み、確認後商品発送。 |
代金引換 | 宅配業者に品物引き換えに現金を渡す。(クレジットカードで払うことができる場合もある) |
クレジットカード | カード情報をネット上のHPに入力。 |
コンビニ決済 | 売り手が通知する番号により、買い手がコンビニから商品を受け取り、代金を払う。 |
プリペイド方式 | コンビニで事前にカードを購入。このカード情報を入力して代金を支払う。 |
ネットバンキング | インターネットバンキングの応用。 |
ネットデビット | 同上。普通預金口座開設者にIDを与え、買い物をした際、このIDを入力すると、口座から代金が引き落とされる。 |
プロバイダー料金に上乗せ | プロバイダーに毎月支払う利用料に、商品購入代金をオンしてクレジットカードで支払う。 |
出典:アクセンチュア(株)調べ。
総務省が2002年5月21日に発表した通信利用動向調査によると、2001年末時点のインターネット普及率は44%(前年末37.1%)ででした。また、米国系の著名なコンサルティング会社、アクセンチュアの調査によれば、日本のe-コマースの市場規模は2005年までに、2000年に比べ、消費者向けで約40倍、企業間で約5倍の大きな伸びを示すと以下と予測されました。
日本のe-コマース市場規模
- 消費者向け(B to C = business to consumer)
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- 1999年
- 3,360億円
- 2000年
- 8,240億円
- 2003年
- 5兆6,240億円
- 2004年
- 13兆3,000億円
- 企業間(B to B = business to business)
-
- 2000年
- 21兆6,000億円
- 2003年
- 68兆円
- 2005年
- 111兆円
さらに、e-コマースの成約条件として、クレジットカード番号の入力が求められるケースが増えている点も見逃せない事実です。
前記インターネット決済推進協議会が今後どのような方針を打ち出すにせよ、B to C(消費者向け)取引規模の著しい膨張並びに万事につけてpro active(犯罪を未然に防ぐ)な取締体制を欠く私達の国の社会的体質により、今後サイバー空間のクレジットカード犯罪は、リアルな世界と同様、増加の一途をたどることを予想されています。