クレジットカードの磁気ストライプ、磁気テープについて

クレジットカードの磁気ストライプ、磁気テープ

プラスチック製のテープ表面には、磁性体と呼ばれる小さな磁石の粒が並んでいます。磁気テープの記憶容量は磁性体の粒のサイズに依存していて、小さければ小さいほど多くのデータを記録できます。

今回は磁気テープの原理を簡単に振り返ってみましょう。

磁気テープ(magnetlc tape=MT)の足跡

世界で初めてMT付きカードを発行したのは、1967年、イギリスのバークレーズ・バンクでした。日本では、住友銀行が69年、CD用にMT付きキャッシュカードを発行したのが第1号といわれています。その後約30年間、銀行統一仕様の制定、JIS化、ISO規格への準拠、偽造防止対策など、MTはさまざまな展開を見せてきました。

キャッシュカード、クレジットカード双方を支えて、MTはその役割を十分に果たしてきたといえます。しかし、最近、主としてセキュリティ、データ容量の観点から、その限界が囁かれ、MTカードに次ぐものとしてICカードが大きくクローズアップされてきました。MTとICとを比較してみると、次の表のとおりとっています。

MTカードとICカードとの比較

磁気テープ ICチップ
製造コスト 100円前後 メモリ容量や演算速度により異なるが通常400円前後(生産規模拡大によリコストダウンの見込み)
記憶容量 79文字 64kb 8,000文字
応用範囲 クレジット、キャッシュ、デビット、プリペイド各カードなど主として金融決済用 金融決済(電子マネーを含む)のほか、行政、医療、身分証明など約120種類の分野で利用可能
判断力 なし あり
インフラ 通信回線と端末が必要 独立型、通信回線と端末との連携型の両者がある
データ入力 書込み1回型 書込み、書換え、消去が自由
データ読取 端末 ICチップに読取機能を内臓
本人確認 ショッピングは署名や写真視認、キャッシングはPIN PINおよびその他手段(指紋、声紋、虹彩など)で確認。異なるPINが一定回数以上入力されると、IC自体が閉鎖
相互確認 カードとカード会社間の相互確認機能なし 相互確認機能あり
耐偽造性 比較的弱い 偽造は採算上ほとんど不可能
耐タンパー性 署名欄に防止策あり 外部からの不正操作を探知すると内部データを自ら消去するなど、外部からの読み取りはできない仕組み
データ盗取 スキミング、タッピングとも可能 同上(ただし、タッピングは一部可能性あり)
暗号 MT自体に暗号処理能力なし チップ自体に暗号処理、判断、処理能力を内臓
無効確認通知 全件確認は不可能 全件確認可能
カード無効化 不可能 不可能可能

資料:『デビットカード総覧』(シーメディア)より作成

MTとJIS・ISO規格

MTの形状は、厚さ0.03ミリ、幅12.7ミリのポリエステル素材に、厚さ0.01ミリのコーティング(上塗り)を施した細長い帯状のものに、微粒子磁性体を付着させたものです。この磁気層に、データを2進法により入力(エンコード)したものが、いわゆる磁気テープ(ストライプともいう)です。

耐タンパー性(外部からの盗視、加工を防ぐ力)を高めるために、テープそのものが、肉眼では見えない「磁気隠蔽」の印刷技術、データの消去や書き換えができない「ライトワンス型」テープの開発、復元困難な二重構造電気層タイプ、特別のカメラの応用により 指紋を照合できるタイプなどが開発されています。ところが、最近、「スキミング」と呼ばれる大敵が現れて、MTを容易にコピーする偽造手口が台頭してきました。MTのこれまでの優位性が脅かされてきたことは、周知のとおりです。

大手都市銀行は、72年、CDとキャッシュカードのMTとの整合性を図るため、「銀行統一仕様」を制定し、MTをカードの表に張ることを決めました。銀行系カード会社もこれに倣い、カード6社の統一仕様書「NTT規格」を採用しました。工業標準化法は同年、この銀行統一仕様書をJIS規格としました。

ところが、 4年後の76年、ISOがMT規格を制定し(IS0 2894および3554)、MTをカードの裏に張ることとしました。通産省は、79年、このISOの決議に対応するため、裏張りをJIS Ⅰ型、表張りをJIS Ⅱ型とし(JIS X6301およびX6302)、この状態はその後約20年間続きました。その間、信用照会端末機の仕様をめぐり、JIS Ⅱ型とISOとの相違が何回か問題化したこともあった。

お隣の韓国でも日本の統一仕様書を採用した結果、ISOとの非整合性が問題となったと伝えられています。

通産省は、98年3月、このJIS Ⅰ、Ⅱ型の呼び方を廃止し、I型をJIS規格、Ⅱ型をJIS規格付属書としました。表44は、I型とⅡ型とを比較したものです。

JIS Ⅰ型とJIS Ⅱ型との比較

JIS Ⅰ型 JIS Ⅱ型
磁気テープの幅(最大) 第Ⅰトラック 3.31mm
第Ⅱトラック 3.30mm
第Ⅲトラック 3.30mm
シングルトラック 5.4mm
記録密度 第Ⅰトラック 8.3b/mm ± 5%
第Ⅱトラック 3.0b/mm ± 3%
第Ⅲトラック 8.268b/mm
シングルトラック 8.26b/mm ± 4%
データ量 第Ⅰトラック 79文字
第Ⅱトラック 40文字
シングルトラック 72文字

資料:『POSシステム 流通業の情報化戦略』日本経済新聞社(1988年)

MTの構成

前述したISO 3554は、国際的な汎用性を考慮して、第1、第2および第3トラックからなっています。第1トラックはIATA(国際航空運送協会)用、第2トラックはABA(アメリカ銀行協会)主導による規格、第3トラックは 欧州のユーロ規格となっている(日本では使用されません)。第1および第2トラックの構成は、図15のとおりです。

業態分類コードと企業コード

X
業態分類コード
NNNN
クレジットカード会社コード
  1. T&E、特殊金融業
  2. 銀行系カード会社
  3. 信販系カード会社
  4. 流通系カード会社
  5. メーカー系カード会社
  6. 協同組合系カード会社
登録手続
登録を希望する会社は、通産省の外郭団体である「流通コードセンター」に申請用紙を請求し、記入のうえ、登録を申し込み、4桁の番号をもらう。

業態分類コードと企業コード

MTには会員番号欄(16桁=PAN=Primary Account Number)が内包されています。このうち、最初の1桁は業態コード、次の4桁は企業コードで、両者を合わせて広義のクレジットカード会社コードと称することがあります。残りがカード会員の番号用です。つまり、この16桁の数字により、銀行系、信販系、あるいは流通系といった業態、クレジットカード会社、およびカード会員が識別される。次の図は、業態および企業コードを示したものです。

磁気テープの記録様式とカード表面 JIS Ⅱ型(NTT規格)

磁気テープの記録様式とカード表面 JIS Ⅱ型(NTT規格)

MTの抗磁力

MTは磁気隠薇層と特殊印刷のコーティングで保護されていますが、それでも外部の磁気から影響を受けることがあります。MTの抗磁力は、700~1,000エルステッドで、JRカードやテレフォンカードの2,000~3,000エルステッドに比べると低くなっています。

エルステッド(Oersted)は外部磁気、たとえば、電子レンジなどから発生する磁気に抵抗する力を示す単位で、数字が大きいほど強い抵抗力を持っています。いずれにしても、MTは強い外部磁気には近づけないほうが得策です。

ゼロ暗証番号

MTの暗証番号欄(5桁)には現在ゼロが入力されています。日本の銀行は、80年代半ばまで、この欄に暗号化しないナマのままの暗証番号を入力していました。ATMによる暗証番号の照合は、会員がATMに打ち込む番号とATMがMTから読み取る番号とが一致すればよいとされていました。この脆弱性を突いて88年8月に富士銀行キャッシュカード偽造事件が発生し、これを機に、ゼロ記入方式が採用されました。日本の暗証番号は、生年月日や自宅の電話番号が使われることが多い。これは、65年の第1次オンライン化当時、銀行が不馴れな顧客に対して、生年月日や電話番号を暗証番号にするよう勧めたことも一因であるようです。

MTとスキミング

数年前、国際ブランドカードは偽造カード対策の一環として、「CVV・CVC」といった特殊な照合番号を採用し、これをMTにエンコードすることとしました。これに対抗して犯罪グループが考え出したのが このスキミング手法です。MTに入力されたこの番号を含むすべてのデータを、そっくりそのままコピーする手口で今猛威を振るっています。

復権!ハードディスクよりスゴい「磁気テープ」

近年、SSDやDVDが圧倒的に優位なのは、データの読み書き速度。だから磁気テープは、毎日ひんぱんに出し入れして使うようなデータ保存先にはまったく向かず、システムの大規模バックアップデータのバックアップデータ、くらいのスーパーサブ的な位置づけでした。困ったとき、ピンチのとき、後ろを振り返ると、頼もしい磁気テープが控えている…。ローテクIT技術が、今再び盛り上がっています。

万一の状況に備えた頼れるバックアップ!

低いコストで運用できるのも大きなメリットです。HDDはデータを使用していなくてもディスクが常に回転している必要がありますが、磁気テープが電気を必要とするのはデータを読み出すときだけ。また、設置費用もHDDに比べて安価で済みます。

クレジットカードのような小さい物の記憶媒体にうってつけのものだと言えますね。

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