偽造クレジットカードとlCカード、対応が遅れる日本

偽造クレジットカードとlCカード

まず、変造と偽造との違いを理解しておきましょう。小学館の大日本百科事典によれば、変造とは「正当な権限がないのに、真正に成立した文書などの内容を変更すること」と定義付けられています。本物のクレジットカードの有効期限を先に延ばすなどがその好例です。

変造に対して偽造は、「真物に酷似した偽物を作り出すこと」と定義されています。法律上、文書偽造罪、有価証券偽造罪などでは、両者は並んで同一の犯罪態様として処罰の対象となります。以下、本物のクレジットカードに酷似した偽物のカード作りについて考察してみましょう。

クレジットカードの刑法上の位置付け

クレジットカードは私文書とみなされる(最高裁判決1981年2月5日)が、電磁的記録として扱われることもあります。テレホンカードは有価証券とみなされます(同1991年4月5日)。

つまり、これまでクレジットカードはテレホンカードに比べると、その経済的役割や社会的信頼性からみて、やや低く位置付けられてきましたが、2001年7月に施行された改正刑法は、次のように支払用カード(クレジットカード、プリペイドカード、キャッシュカード)の偽造の規制を強化するとともに罰則を大幅に厳罰化したのでした。

  1. 支払用カード(クレジットカード、プリペイドカード、キャッシュカード)電磁的記録の不正作出罪(10年以下の懲役または100万円以下の罰金)
  2. 同上カードの共用罪(10年以下の懲役または100万円以下の罰金)
  3. 同上カードの譲渡罪(10年以下の懲役または100万円以下の罰金)
  4. 同上カードの所持罪(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)
  5. 同上カードの情報取得・情報提供罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)
  6. 同上カードの情報保管罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)
  7. 同上カードの不正作出準備罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)
  8. 未遂罪(上記①、②、③および⑤の未遂を罰する)

クレジットカードの偽造場所とは?

次に、カードを偽造する場所について触れておきましょう。ひと昔前までは偽造工場(通称「ボイラールーム」という)は、アメリカではロサンゼルスとマイアミ、東南アジアではマニラ、香港、バンコク、クアラルンプールなどの都市に限られていました。旧西ドイツと日本がカードデータの2大供給基地で、出来上がった偽造カードを外国人が日本に持ち込む、というのが一般的な構図だったのですが、その後、日本でも関東、福岡、札幌、などで偽造工場が摘発されるようになりました。

私もかつて、香港で偽造工場を急襲する香港ロイヤルポリスの刑事たちに同行したことがありました。ビルの地下にある殺風景な小部屋に裸電球がぶら下がり、あるのは机と椅子、電話機とFAXだけ。エンボッサーと生カードなどが散らばり、室内はもぬけの空でした。

いつ察知されたのか不思議ですが、犯人の逃げ足はきわめて迅速、との印象がとにかく強かったことを覚えています。

ところが、最近は前述の構図に変化が生じてきています。次の表は、1980年以降、主要全国紙に報道されたわが国におけるカード等の偽造事件の主なものを年代別にまとめたものです。

国内のカード・銀行券等の主な偽造事件一覧

発覚場所 偽造対象 内容
1980 札幌 北海道銀行
キャッシュカード
日本電電公社技術員、CD専用線からデータを盗聴、133万円を引き出し。(注1)
1988 東京 富士銀行
キャッシュカード
日立電子サービス社員、磁気テープのデータを解読し、CD屑箱から集めた利用明細書のデータを自地カードのテープに入力。360万円を引き出し。(注1)
1990 東京 昭和天皇在位60年
記念10万円金貨
海外より偽造金貨10万枚以上が持ち込まれたことが発覚。最終的には、日銀が約8万6千枚を引き取り、時効成立後の01年3月に特別損失68億円を計上。(注2)
1996

1998
全国 パチンコカード、テンカ、ビール券、収入印紙、商品券、新幹線回数券、印
鑑、ギフトカード、旅券等
大半は東南ア諸国で偽造されたものが持ち込まれた。一部は墨田区、新宿区等で偽造。被害額はパチンコカードで630億円、テレカで100億円など多額に上った。(朝日96・7・11、日経96・6・11、読売97・2・6など)
1999 関東 JCB提携カード 提携先セントラルファイナンス、高島屋、ダイエーOMC、ジャックス、クンディセゾン。被害額2.8億円(日経99002・22夕刊)
1999 中野区 クレジットカード マレーシア人1名を逮捕。マンションの一室で偽造。密輸した生カード720枚、偽造カード36枚押収。(読売99。10・28)
2000 大阪・千葉 クレジットカード 大阪市と千葉市とで偽造工場摘発。香港マフィア7名逮捕。米国、カナダ、シンガポール、マレーシアからカード情報をFAXで入手。偽造カード3,800枚押収。(日経00・1・27)
2000 東京 クレジットカード 99年10月以降、高島屋提携クレジットカードの偽造急増。店内のレジ周りでカード番号を覗き見し、これを携帯電話に打ち込む手口。高島屋カード会社は、30万枚の再発行を余儀なくされた。(朝日00・1・26)
2000 東京 印章 預金通帳を盗み出し、印影をパソコンで複製し、印鑑を偽造して預金を引き出し。これをきっかけとして、副印鑑制度が廃止された。(読売00・5。30)
2001 東京 首都高速道路回数券 6月7日までに発見された偽造券は20,929枚、額面で1,465万円、組織的犯罪グループ介在か。(読売01・6・25)
2001 新宿 1万円札 中国系マンーシア人1名逮捕。30数枚押収。(読売01・7・19)
2002 福岡 福岡カード偽造工場摘発 拠点は関東、偽造カードを福岡で行使。マレーシア人と日本人を各1名逮捕。(読売02・1・8)
2002 大阪 1万円札 60数枚押収、日本人1名逮捕。(読売02・2・5)
2002 都道府県17 1万円札 香港マフィア関与。1,562枚押収。(読売02・1・9)
2002 中国国内 各種証明書 中国政府公認の留学斡施機関が発行する大学卒業証明書並びに日本法務省入国管理局が発行する在留資格認定書の偽造が発覚。(読売02・1・25および1・26)
2002 成田 偽造ビール券と偽造外国銀行券の密輸 中国人1名逮捕。(読売02・5・8)
2002 韓国 W杯チケット ニセチケット販売現行犯逮捕。(日経02・7・21)
2002 成田 50ユーロ紙幣 国内初のユーロ偽造紙幣。(読売02・7・30)
2002 成田 偽造カードの原板 密輸を試み、台湾人1名逮捕。3,200枚押収。(読売02・10・8)

出典:(注1)瀬川至郎『カードの科学』 (注2)平成12年度日本銀行業務概況書、主要全国紙

これによると、80年代から90年代初めまでは、国内で摘発された偽造事件は、コンピュター技師などによるマニアックな偽造に限られていました。しかし、その後90年代後半に入ると、カード、商品券、回数券、ギフト券、収入印紙などの偽造事件が急増しています。偽造工場は、国内外の混合型となってきました。

1999年に入ると、国内での偽造活動が暴力団の絡みもあって、さらに活発化してきたことは、あなたももご存知のかもしれません。なお、1997年は香港が中国本土に復帰した年でもあります。同地で暗躍していた香港マフィア(爆窃団14K、三合会(三合會、さんごうかい、サムハプウイ、トライアド)、流氓(りゅうまん)や福建省の蛇頭(じゃとう)などのグループが、中国警察の取締りを避けて各地に散らばっていきました。

この分散化がわが国における1997~1998年頃からの偽造活発化現象の一因となっていると私は見ています。

偽造クレジツトカードを使う人

偽造カードの使い屋は、

  • 悪徳金融業者などに強請された多重債務者
  • 蛇頭の手引きで密入国してきた中国人
  • 組織化され訓練を受けた不良外国人
  • 暴力団組員
  • などが目立っています。

    偽造クレジツトカードの作成方法とは?

    自地カードの入手する

    カードを偽造するには、まず原板となるプラスチック板を入手する必要があります。現在のクレジットカードの原板には、ホログラムなどさまざまな偽造防止策が組み込まれているので、これらをすべて真似るには莫大な費用と時間がかかります。

    そこで、手っ取り早い方法として、クレジットカード印刷業者(ベンダー)から、ホログラム入りの完成寸前の自地カード(生カード)を奪い取るやり方があります。この手回はアメリカで多発しています。

    2002年6月13日、成田空港で偽造クレジットカード用原板5000枚余を密輸入しようとした日本人男女2人が逮捕されました。カードは35種類あり、すべてにホログラムが施された精巧なもので、運び屋はこれをクアラルンプールで入手したと伝えられています。

    クレジットカード情報の入手方法は?

    クレジットカード情報の入手には、次に説明するとおり、いろいろな方法がありますが、最近とくに猛威を振るっているのがスキミングとブランコスリである。
    スキミングとブランコスリについては前述したが、ほかにも方法は多々ありますのでここでまとめておきましょう。

    1. スキミングとブランコスリ(詳細は前述)
    2. 古典的な手法だが、ATMコーナーの屑箱に捨てられた利用明細書や、郵便箱から抜き取ったカード利用明細書から情報を入手する方法
    3. 覗き込み(オーバー・ザ・ショルダーともいう)。ATMの行列待ち、レジの台に載せられたカードを後から覗き込む方法。背の高い外国人などが後ろに立っている場合は用心したほうがいいだろう
    4. 空巣狙い、車上荒らし、介抱ドロ
    5. 警察官やカード会社の担当者を装い、あるいは通販業者や電話セールス員になりすまし、言葉巧みにカード情報を聞き出す手口
    6. 加盟店の店員を抱きこみ、カード情報を横流しさせる
    7. インターネット不正アクセス
    8. インターネットのクレジットマスター(credit master)またはクレジットウイザード(credit wizard)を悪用する。クレジットマスターは、カード発行会社BIN(base identification number)別にカード番号を「発生」する機能と、有効なカード番号を推測する機能とを併せ持っている。(クンジットウイザートもほぼ同じ機能をもっている)

    偽造対策としてのICカード

    クレジットカードの偽造に対抗するには、カードのIC化が一番だといわれています。現在の磁気ストライプに比べてICチップがいかに偽造されにくいかを示す表13を見ると、それがよくわかります。ただし、ICカード化だけがカード不正行為対策の万能薬でない点にはよく留意すべきです。

    フランスはICカード先進国であり、その成果である「カルテ・バンケールcartes bancaires」(フランスの銀行カードの名称)は、紛失、盗難、偽造などの不正行為の押さえ込みに格段の成功を収めていると伝えられています。同国は1985年にカードシステムにIC技術を導入することを決定し、数年にわたる周到な準備期間を経て、90年にカードのIC化に着手、92年にこれを完成させました。

    注目すべき点は、その間、同国が官民一体となって、ICカードを支えるオーソリ(信用照会)、ATMシステム、公衆電話、信用照会端末などのインフラ設備のIC化に力を注ぎ、暗証番号(PIN)管理、無効通知システムの完備と加盟店教育を徹底的に行った事実です。

    日本では、カードをIC化すればすべてが解決されるという、やや短絡的で安易な考え方がまかり通っているように思われますが、ここは慎重に考えるべきではないでしょうか。

    その他の主な偽造対策

    ICカードのインフラを完備するまでには相当の時間がかかります。その間の偽造対策として考えられる提案を次にリストアップしてみました。

    1. 加盟店教育を徹底化する
    2. マグネプリント(マグネティックとフィンガープリント=指紋の合成語)を利用する。磁気ストライプにも指紋と同様、固有物質的な特性(ノイズ)がある。これを1つひとつ照合するシステムを開発、導入する
    3. 指紋。彩紋を照合する
    4. 電子ビームにより、カード面上に一定の模様を刻み込み、これを特殊フィルムで照合する装置を開発・導入する
    5. カードに磁気を帯びた特殊繊維を混ぜ込み、繊維の絡み合った形状を指紋に見立てて、その真偽を測定する
    6. 高度の不正使用検知システムを開発する
    7. 超小型の無線ICチップをカードに埋め込む方法を採用する(欧州中央銀行が単一通貨ユーロ紙幣について採用する可能性が伝えられているが、これをクレジットカードに応用することはできないか)
    8. UFJグループ、大日本印刷、日立製作所が共同出資して設立した日本マスターカード・ソリュージョンズが2002年11月から販売したIC不正書き換え防止ソフトを利用する

    ICカードとMTカードとの比較

    ICカード MTカード
    本人確認 ショッピング、キャッシングとも、イシュアーが暗証番号、署名、その双方を選択。暗証番号は登録済みデータと照合され、異なる暗証番号が連続規定回数に達するとICが閉鎖、適切な方法で解除されるまで暗証番号入力を受け付けない ショッピングは署名(写真)を店員が視認、キャッシングは暗証番号による
    耐偽造性 ICチップと暗号を使用し偽造は困難 特殊印刷、特殊文字、ホログラムを使用
    耐タンバー性 動作時に供給電力やクロック周波数により不正を検知し、内部状態をリセットして中間データを消去。また、物理的にもデータや回路に読み出し困難な工夫が凝らされている 署名欄に偽造防止策
    データ漏洩防止 スキミング不能、盗聴にやや弱点あり スキミング、盗聴ともに可能
    暗号使用 暗号演算はICカードによって行われる。読み出し・書き込みをICカード自体が判断・制御 暗号演算は外部の機器によって行われる(データは外部で読み出し・書き込み)。カード自体に制御機能なし
    相互確認 カード会社とカードが相互確認 確認機能なし
    無効通知確認 全件確認可能 部分確認のみ
    カードの無効化 端末挿入時にDLL機能により無効化可能 無効化できない

    資料:『デビットカード総覧』(シーメディア)

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